その168 「剣の理法」について

「剣の理法」について

 このほど令和6年(2024年)3月5日、『剣の理法説明版』が完成し目下、国内外に向けた案内・説明を推し進めています。

『剣の理法説明版』(3月5日)

《本文》
「『剣の理法』とは、気剣体一致した打突を生み出すために心法・刀法・身法を一体としてはたらかせる理にかなった方法のことである」

《補足》
「気剣体一致した打突は、心法(心のはたらき)と刀法(刃筋・物打・鎬などが機能する刀・木刀・竹刀の適正な操作)と身法(体勢・体さばきなどの身体の運用)とが一体となっているものである」

 『剣の理法説明版』は全剣連のHPに掲載されています。
     https://www.kendo.or.jp/information/20240509/

 どうでしょう?
 この「本文」と「補足」に目を通して腑に落ちたでしょうか?
 これらの文言は非常に抽象的な表現となっていいます。皆さんはこれをどのように活用しますか?
 「本文」と「補足」に記されている文言を丸暗記しても、けっして「剣の理法」を理解し「剣道の理念」を体現したことにはなりません。
 これを具体化し、自分のものとして、どのような剣道を心がけるかが大切となってきます。

 また、剣道の修錬を「人間形成の道」に結びつけるには一定の条件が必要です。
 それには「剣の理法」を修錬しなければなりません。
 しからば「剣の理法」とは何でしょうか。
 それが剣道界における長年の課題でありました。 

 井蛙剣談では、全剣連の『剣の理法説明版』に先んじること1年4ヶ月前に2022年(令和4年)11月19日付「その136『日本剣道形の理法を竹刀剣道に活かす』」でものしております。
http://shinjukukendo.blog105.fc2.com/blog-entry-151.html

 重ねて申し上げます。
 『日本剣道形解説書』に示されている形は、打太刀が「師の位」、仕太刀が「弟子の位」で立ち向かい、師が弟子に技の組み立てと打突の機会を教えるものであります。
 ところが、いざ真剣勝負となると、形と勝負は立場が逆転することに注意しなければなりません。
 この日本剣道形の立会を真剣勝負の観点でみるならば、「師の位」であるはずの打太刀が敗者となり、「弟子の位」である仕太刀が勝者となるということです。

 『日本剣道形解説書』14ページに「大日本帝国剣道形」(原本)の[説明]が載っていますが、『剣道講習会資料』には現代語で載っているのでここに掲げます。

    一本目 相上段から先の気位で互いに進み、先々の先で仕太刀が勝つ
    二本目 相中段から互いに先の気位で進み、仕太刀が先々の先で勝つ
    三本目 相下段から互いに先の気位で進み、仕太刀が先々の先で勝つ
    四本目 陰陽の構えから互いに進み、仕太刀が後の先で勝つ
    五本目 上段と中段から互いに先の気位で進み、仕太刀が先々の先で勝つ
    六本目 中段と下段から互いに先の気位で進み、仕太刀が後の先で勝つ
    七本目 相中段から互いに先の気位で進み、仕太刀が後の先で勝つ

 このように一本目から七本目まで、すべて仕太刀が勝つ理(ことわり)すなわち「剣の理法」を記しています。
 ですから、この日本剣道形の理法を実際の竹刀剣道で活かそうとするならば、打太刀ではなく仕太刀の側に我が身を置くことが必要となります。

 一本目、二本目、三本目、五本目は「先々の先」で仕太刀が勝つ、四本目、六本目、七本目は「後の先」で仕太刀が勝つとなっています。
 ではこの記述を頼りに「先々の先」と「後の先」についての理法を繙いてみましょう。

<「先々の先」の理>
 先々の先で仕太刀が勝つ一本目、二本目、三本目、五本目は、打太刀が一触即発の間合から直截的(ちょくせつてき)に打突します。
 形では打太刀が仕太刀に打つ機会を教えるために先に技を出すのですが、実際の真剣勝負の場面では、敗者側(打太刀)が勝者側(仕太刀)の強い攻めを受け、耐えきれなくなって、触発されたかたちで技を出してしまう場面です。
 これを勝者側(仕太刀)が一本目と二本目は「抜き」、三本目は「萎やし」、五本目は「すり上げ」で応じます。
 敗者側(打太刀)は先に技を出すが、触発されてのことなので、勝者側(仕太刀)がその先を取る、つまり「先々の先」での勝ちといえましょう。

<「後の先」の理>
 いっぽう後の先にて仕太刀が勝つ四本目、六本目、七本目は、間合に接したとき、まず一齣(ひとくさり)あります。
 つまり四本目は「相打ち、切り結び」、六本目は「引きながらの上段の構えに対する間詰め」、七本目は「気あたり相突き」それぞれの動作が前もってあり、その後、打太刀の打突に対して、仕太刀が四本目は「巻き返して正面」を、六本目「すり上げて右小手」を、七本目「ひらいて右胴」を打つという動作に移ります。
 これも仕太刀(勝者側)が心気、身の懸りともに勝っており、打太刀(敗者側)が技を出さざるを得ない状態に追い込み、それを迎え打つ、すなわち後の先での勝ちとなります。

<「剣の理法」の体現>
 ここに記された「先々の先」「後の先」を体現することが理に適った剣道、すなわち「剣の理法」の体現と言えるのではないでしょうか。
 日本剣道形と竹刀剣道とは打突の動作に違いはありますが、日本剣道形で仕太刀が打太刀に仕向ける先の気位から、間と気が合致した身心の応答を、ぜひ竹刀剣道で体現したいものです。
 この理に適った剣道を目指す稽古こそ『剣道の理念』が謳う「剣の理法の修錬」であり「人間形成」につながる「道」であると考えるものです。
つづく

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